3月21日(金)は、編集者・京都精華大学メディア表現学部教授の伊藤ガビンさんが登場。メディアプラットフォーム・noteで「老いの初心者」としての自身の変化を綴ってきた内容をまとめた著書『はじめての老い』が3月18日(火)に発売となったばかりの伊藤さんと、「老い」について語りました。▼目次老いは「プッシュ型コンテンツ」学生時代に株式会社アスキー(当時)の発行するパソコン誌『LOGiN』にライター/編集者として参加、1993年にボストーク社を起業、編集的手法を使い、書籍、雑誌のほか、映像、Webサイト、広告キャンペーンのディレクション、展覧会のプロデュース、ゲーム制作などを行ってきた伊藤さん。 番組ナビゲーターの川田十夢さんは「結構ガビンさんをなぞっていて。“メ芸”(文化庁メディア芸術祭)の審査員とか、ミュージックビデオやったりとか」「(違いは)編集か開発かぐらいで、いろんなことをやっているのは結構近くて、血眼で見てました」と、伊藤さんから受けた自身のキャリアへの影響について明かします。そんな川田さんは、伊藤さんの自身の老いを綴ったnoteを「読んだときにびっくりした」といい、「どういう心境で始めたんでしょうか?」と質問。伊藤ガビンの「はじめての老い」|伊藤ガビン|note「文章をそろそろちゃんと書こうかなという気になったのが大きいんですよね。『何なら書けるかな?』と思ったんですけど、そしたら老いがね、めちゃくちゃ書きやすいんですよ。なんでかって言うと、毎日変化が来る。だから追いかけたり取材しなくていい。プッシュ型コンテンツなんです。手がカサカサになったとか、眉毛が急に伸び始めたとか、毎日のようにコンテンツが配信されてくるんですよ」とその理由を明かした伊藤さん。伊藤さんが綴る「老い」について、川田さんは「いろんな物事に対して、脱力、脱構造というか、そんなに深刻に受け止めない」とその特徴を表現。老眼を「UIの問題」に置き換えたことなど、「(老化を)テクノロジーの技術畑の人がどう感じるかが可視化されて面白いですね」と感じたそう。「あれ、これ聞いてなかったぞ」ということを拾い上げる「老い」を記録していくにあたっては「『あれ、これ聞いてなかったぞ』ということが結構あるんですよ」と伊藤さん。「(老化に関する)すごく大きいトピックに関しては聞いてるんだけど、例えば『電子書籍は老眼になっても字がでかくなるから読めるぞ』『そうだよね』って思ったんだけど、実際読んでみると、ボケたまんま字がデカいだけなんですよ。そのストレスとかがあって、そういうことを拾い上げていっている」とのこと。「老いについて書こうかな」というお話をしたとき、奥様からは「そこはもうレッドオーシャンやで!」「もうめちゃくちゃ本屋にもコーナーあるし、そこは危険や!」という反応があったそう。しかし伊藤さんは「まだまだ書かれてない。すごく栄養があるところ」「肥沃な場所が残ってるんですよ」という旨を伝えて書き始めたそう。「クリエイティブの仕事って、みんなが手をつけてるけど“いかに手をつけてなかったかのようにパッケージして届ける”みたいなところがあるじゃないですか。ちゃんと老いというパッケージをガビンさんは新しく提案してくれている」という川田さんに、ガビンさんも「それは嬉しいですね」と反応。“老害”観についてトークトーク後半、川田さんは伊藤さんが綴ってきた内容について「“キレる老人”側に日々近づいている自覚があるというようなことを書いていましたけども、あるときは嫌だなと思ったじゃないですか、街中でキレるとかは『ああなりたくないな』(と思う)、でもいつか(嫌だなと思った側の)当事者になっちゃうというのはどういう感覚ですか?」と質問。伊藤さんは“キレる老人”になってしまうことについては「理由がいっぱい」あると説明。「例えば脳が萎縮してくる。感情失禁という言葉があるんだけど、要するに、何か漏れ出ていっちゃうんですよね。いろんな感情が制御できなくなっていく。僕は研究者じゃないのであまり確かなことは言えないですけど、調べればいろいろ出てくる」といいます。さらに、伊藤さんが言及したのが「いわゆる男性性みたいなものが急に反転する瞬間」。「例えば携帯ショップに行ったとするじゃないですか。若い男性として行っているときは、一番詳しいぐらいのお客さんとして扱われるんですよ。ところが、ちょっと見た目がおじいちゃん化したときに、何にも知らない赤ちゃんみたいな、(店員さんの接客)態度に急に変わるんです」と伊藤さん。「これは、僕は面白いと思ってしまうタチなんだけど、でも自分の男性性みたいなところに立って生きてきた人にとっては耐えられないかもしれないなという。(その変化が)突然だから、『若造がこんな舐め腐って』みたいなことになるかもしれないですね。それなりにIT絡みの仕事とかしてきても、何も知らない人として扱われて、すごいびっくりしますよ」と実体験を交えて解説した伊藤さんは、この変化を「多分アップデートできない瞬間が来るんですよね。『そのOSはもう保証範囲外です』みたいな瞬間が」と表現。いわゆる“老害”という言葉について「迷惑かけんなよ、俺らに」という感情によるものとし、それを「どういう風な仕組みにしておくかというのは考えておいてもいいかもしれない」と感じたそうです。返納したくなったものは「スマホ」川田さんが書籍の中で一番好きだったというのが「返納のくだり」。「返納」という表現は、「奪われる」という表現よりも「余裕がある感じがする」という川田さんは、伊藤さんに「最近返納したくなったものはありますか?」と質問。すると「いずれ、ちゃんと返納しないといけないかなと思ってるのはスマホですね」と伊藤さん。世の中で「なんで返納しないんだ」とまず言われるものは運転免許だとし、「それは(運転技術によっては)暴力装置になっちゃうからじゃないですか。迷惑がすごくかかる。他に迷惑かかるものってなんだろうって考えると、やっぱりスマホなんですよね」「なんか壺とか買っちゃいそうじゃないですか。家族のもとに。壺じゃなくても健康のことを考えて、栄養ドリンク、酵素ジュース…年間契約とかしちゃいそう。それは怖いなと思いますね」とその理由を語りました。伊藤さんの「老い」研究の中で「らくらくホン」への言及があった点にも川田さんが触れると、「あれって“安心ケータイ”なわけじゃないですか。各キャリアがいろんな名前で出してるけど、“安心ケータイ”なので、家族が見守ったりとか、オレオレ詐欺とかを防止する機能とか、いっぱい(機能が)ついてるんですよ。だからね、積極的にお世話になっていくぞっていう。それにはね、恥ずかしさがあるでしょ?なんかちょっとそこはブランディング必要ですよね」と伊藤さん。川田さんからはそのブランディングを仕事として頼まれたらやるのでは?と聞かれると「それはやりたい」とのこと。研究することで自身が“老いハブ”にさらに伊藤さんには、研究テーマとして「老い」を掲げたことによっての変化もあったそう。それは「久しぶりに会う人が、『ガビンさん、そういえば僕ね…』みたいな感じで、自分の老いを出会い頭に話すんですよ」というもの。「おじいちゃん・おばあちゃんが病院で病気の話から入る」「イギリス人が天気の話から入る」ように「すごくナチュラルに会話がスタートする」そうで、その結果「もうものすごいトピックが集まってきて、ハブになってるんですよ。“老いハブ”に。だから、書くことは結構無限に出てくるぞと思っていますね」とのこと。自身を切り取った一言は「老いは変化」「Morisawa Fonts ROAD TO INNOVATION」では、ゲストに「自分自身の考えを自ら切り取る言葉」を訊ね、その言葉を、ゲストお気に入りのフォントとともに紹介しています。伊藤さんが自身を切り取った言葉は「老いは変化」。フォントは「A1明朝」です。「今はこの本のことを考えているから、老いのことしか考えてない」という伊藤さんの頭の中の「一つの結論」としての言葉が、この「老いは変化」。「変化」の意味合いとして、「劣化とか、ネガティブな要素」でもなく、「何かパワーを得るもの」でもなく、「ただの変化という感じ」を受けているとその意味合いを解説しました。PODCAST | 川田十夢×伊藤ガビン%3Ciframe%20src%3D%22https%3A%2F%2Fplayer.sonicbowl.cloud%2Fepisode%2Fd2918196-790a-49cd-977b-f60f3cb965f9%2F%22%20allow%3D%22autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20fullscreen%3B%20picture-in-picture%22%20height%3D%22240%22%20width%3D%22100%25%22%20style%3D%22border%3A0%22%3E%3C%2Fiframe%3E