5月16日(金)は、2003年に『蛇にピアス』でデビュー、今年4月には長篇『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』を上梓した小説家・金原ひとみさんが登場。この作品で描いた時代や価値観の変化、さらに自身の小説家としての原体験などについても語りました。▼目次性加害が大きなテーマの一つ『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』は、金原さんの作品の中でも最も長いものでありながら、番組ナビゲーター・川田十夢さんはこの作品を「上司のFacebookと、友達のInstagram」を「寝そべりながら見てる」ことに例えてその筆致を表現。金原さんも「分厚い(原稿用紙)1000枚超えの作品なので、ちょっと躊躇するかもしれないですけど、本当にSNSをのぞくぐらいの気持ちで読み始めてもらえたらなと思います」とのこと。ストーリーは、ある女性がかつて文芸誌の編集長から性的搾取されていたとネットで告発したことがきっかけでさまざまな人々の日常がうねり始めるというもの。また、「性加害が一つのテーマではありますけど、いろんな登場人物が章ごとに主体になる。すごい書き方だなと思いました」と川田さんが触れた通り、年代や性別の異なる8人の視点で描かれている作品です。その点について「50代の男性にもなり、高校生にもなり。いろんなキャラクターを自分が体験してきたような感じです」と表現する金原さんに、「金原さんの中に“おじさん”もいたってことですか」と川田さんが聞くと、「“おじさん”もいます」と金原さん。「私自身(小説家として)デビューした頃はまだそういう世界だった」と、小説家としてのデビュー当時は男社会だったことに触れ、「なので、自分の見てきた世界がこういうふうに潰えていくのかというのを、自分でも実感してきたところがあったので、おじさんの気持ちももちろんわかるところがある」と語ります。時代の変化に伴う「突き上げられているな」という感覚このような、時代の変化による「何か消えていくみたいな感覚」は、「クリエイティブな仕事をしている友達」との会話でも挙がったそうで、その友人は「昔は自分が思いついたことが最先端だったけれども、今はめちゃくちゃ考えないと若い人たちの気持ちがわからない、時代がここまで移り変わっているということをどう受け止めていったらいいんだろう」ということを言っていたそう。金原さん自身も「長いこと表現・創作を続けていると、この世界を見渡したときに今自分がどの位置にいるのかみたいなことが、だんだん俯瞰的に見えるようになってきて。やっぱり『あ、もう突き上げられているな』というような感覚が最近特に強くある」といいます。このように性加害がテーマでありながら、その性加害が起こった時期と現在という、時代に伴う変化についても感じられる作品。「結構恋愛観自体が時代と紐づいている」(川田さん)、「恋愛に必要なものがどんどん変わってきているなというのを実感する」(金原さん)と、放送では、時代の移り変わりに伴う恋愛感情にまつわる変化についてもトーク。複数の登場人物を描くことの良さ作中に複数の登場人物が出てくる点について川田さんが気になったのが「“いろんな人になって書いてみる”って大丈夫でしたか」という点。「この方式って読んでいて楽しかったんですよ。だから“金原文学”の一つの潮流になるのは嬉しいんですけど、やっぱり体力使いましたか」という質問が。しかしその方式について金原さんは「すごい楽しくて」とのこと。「テーマがテーマだけに書くのが辛いときもありましたけど、例えば1人出てきて『あれ、おかしくない?』みたいに思うところがあっても、その人の視点ではそこ(の違和感)は語れないじゃないですか。でもそれが別の視点の人に切り替わると、『いや、こいつはこういう意味でダメだ』とダメ出しできたり、冷静な分析ができたりする」といい、「いろんな視点に移り変わっていくことで、正しさって何だろうとか、今の時代って何が求められているんだろうとか、そういったことを俯瞰的に見ていくテクニックを書きながらちょっとずつ獲得していったような感覚もあって、とても面白い体験でした」と振り返ります。本に触れるようになったきっかけ金原さんが本に触れるようになったきっかけについてもトーク。「創作に繋がる最初に褒められたこと」について川田さんが質問すると、向いていると言われた体験は「あんまりなかったのかもしれない」「自己評価が低いままずっと書いていたような気がします」と金原さん。「小説を書いている人とか読んでいる人が周りにたくさんいる環境でもなかったので、自分がどういうものを書いてるのかというのも、そこまで客観的に考えていなかった」「初めて(すばる文学賞に)応募したときなんか、絶対受賞なんてするわけないって思っていた」とのこと。さらに川田さんが質問したのが、金原さんの父・金原瑞人さんが翻訳家であることを踏まえ「家庭環境は大きかったですか」ということ。金原さんは「家中本棚みたいなお家で育ったのに、全然(本を)読まなくて。父親の訳した本も読まないし、『本なんか興味ねぇよ』みたいな子だった」といいますが、一時期アメリカに住むことになった際「日本語に触れ合えるようと本を買い与えられて、初めて読み始めたんですよね。それが小学校5年生とかの頃だった」と、本に触れることとなったきっかけを振り返りました。「両輪で生きているんです」“現実”を成り立たせるための“小説”続いての話題は、作品を生み出す者としてのモチベーション。AR開発が主戦場の川田さんは、自身の創作の「エンジン」について、友達と遊んだり母親が絵本を読んでくれたりドラマが終わったりした時に「その時間を終わらせたくなくて、『いや、この続き僕知ってるよ』みたいなことを言い出して、続きを話す」という原体験があり、この「続きを僕は知ってるんだ」という感覚が、今も「未来の続きをテクノロジーで示す」ことにつながっていると明かします。一方、小説が主戦場の金原さんは「現実を成り立たせるために小説が必要、みたいなところがあって」といいます。「現実は辛いじゃないですか。何か支えが必要と感じているときにフィクションというのが一番自分にはハマったんですよね。なので、小説がうまくいってないときは現実もうまく回らないし、小説がうまくいくと現実の自分もうまく回ってくれるようなところがあって、両輪で生きているんです。現実で影響を受けたことを小説に使ったり、小説で得たものを現実世界の方で利用したりということもやっているし、(小説は)なくてはならない一つの足場みたいなものになっていますね」と金原さん。そのため「現実で苦労している人を見ると、『でも現実だし』みたいな。(現実と小説はそれぞれ)半分だから、どちらかが行き詰まっても逃げ道がある、とちょっと楽をして生きてきたところもあるのかもしれない」と語りました。自身を切り取った一言は「正しく自由に語れ」「Morisawa Fonts ROAD TO INNOVATION」では、ゲストに「自分自身の考えを自ら切り取る言葉」を訊ね、その言葉を、ゲストお気に入りのフォントとともに紹介しています。金原さんが自身を切り取った一言は「正しく自由に語れ」。これは「私は一つだけタトゥーが入っているんですけど、レタリングで、最初の行が『正しく自由に語れ』とラテン語で入っていて、それは私の中で守りたい言葉」とのこと。フォントは「黎ミンY30」 を選びました。PODCAST | 川田十夢×金原ひとみ本記事の放送回をディレクターズカットでお聴きいただけます。%3Ciframe%20src%3D%22https%3A%2F%2Fplayer.sonicbowl.cloud%2Fpodcast%2Fa3a3aca0-193d-494b-b446-e4f3b7adecea%2F%22%20allow%3D%22autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20fullscreen%3B%20picture-in-picture%22%20height%3D%22240%22%20width%3D%22100%25%22%20style%3D%22border%3A0%22%3E%3C%2Fiframe%3E